2011年5月16日月曜日

2001年度の文登研講習会に参加して

文登研講習会に参加して
2001/8/28/655日(前夜泊)、富山県立山町の文部省登山研修所(以下文登研)にて、岩登りの講習を受けてきました。リーダー育成を目標とし、最新の指導法を学んだ受講生は、それぞれの会に戻ってから、自分の山岳会のレベルアップに貢献するよう、期待されています。以下は、講習会の要約及び、その感想です。

<立山の印象>
私にとって北アルプスは、信州で暮らして以来、とても馴染み深い山ですが、日本海側の立山に入るのは生まれて初めてでした。室堂、剱沢に入った第一印象は、「スイスみたい!」でした(立山は、スイスに比べて緯度や標高が低い割に、日本海側気候ということもあって積雪量が世界的に見て多く、夏の残雪が多い。このため、山の上に行くほど、木は低く枝は垂れ下がり、頂上周辺は木が生えていない。雪渓の深いところは、8月に入っても、まだ3mはあった)。テント場の周りには広い雪渓、そして険しい岩山が360度囲むようにそびえています。とりわけ、剱岳は重量感がありました。スイスを意識した、立山駅周辺の町並み、車を置いてケーブルカーに載るシステムも、海外にいるような、素敵な雰囲気でした。しかし、生活している人の立場からすると、立山駅周辺は大きな郵便局も無く、カードが使えず、コンビニも無くて不便です。一方で、美女平や室堂は観光化されていてなんでもあり、雄山山頂に於いては、150円も出せば自販機でジュースが買えて、神社の宮司さんが「拝観料500円!」と叫んでいます。そんなちぐはぐしたところが不思議でした。

<講師や受講生の印象>
講師陣は、指導員の資格はもちろん、日本でトップクラスの集団だそうです。私の担当のY先生は、沢登りから岩に転向した人で、酒やつまみをテントに毎日差し入れして下さる、心やさしい方でした。他の講師も、スポーツ系のおおらかな方が多く、文部省という事で堅苦しいのではないかとびくびくしていた私は、拍子が抜けました。
受講生は、岩歴10年以上のベテランばかりかと思いきや、参加者15名の内、岩をほとんど触っていない初心者が4~5人ぐらいもいて、私と同じ岩歴3年ぐらいの人がもう一人。講師によると、本当にバリバリ岩をやっている人は、わざわざ受講しに来ないそうです。

<講義>
机上の講義は毎日あり、「確保理論」「登山の医学」「緊急事態策」「実技についての質疑応答」の4種類ありました(確保理論は省略します)。
「登山の医学」では、熱中症(熱失神、熱疲労、熱けいれん、熱射病)について、なり易い温度や対策を学びました。私達は、熱中症というと、昼間、炎天下に長時間いると起こるイメージを持ちますが、実際は、急に暑くなったときに急に激しい運動するときに起こるため、運動し始めて1時間以内という短時間で、すでに事故全体の8分の1を占め、2時間以内で、3割を占めます。また、発生時刻は午前中10時~12時ごろが一番多く、意外に早い感じがしました。対策は、「夏の始め」や「山行の初日」に起こりやすいので、特に気を付け、暑さに慣れるまでは短時間の運動から徐々に増やしていく工夫が必要です。気温の高いときには、運動する前に、250ml500mlを先に補給しておき、運動後は、30分置きに500mlの水分が必要であるといわれています。暑さに対する抵抗力は、個人差が大きいので、今のスポーツ医学では、飲みたいときに飲みたいだけ飲むように指導しているそうです。
また、水分補給が大切なのは誰もが知っていることですが、大量の水と主に、0.2%程度(1リットルにつき2gの食塩)の塩分補給も意識することが必要です。熱けいれんをすでに起こした人には、更に濃い、0.9%の食塩水を与えるとよいそうです。
「緊急事態策」では、ヘリの呼び方が大きなテーマとなり、発言が相次ぎました。消防署員の受講生によると、最近、携帯電話で119番をかける人が多く、携帯の場合は一番近くのアンテナにつながるため、例えば吉野で起こった事故の連絡が、田辺の消防署につながってしまい、対応が遅れるという事例が増えているそうです。119番は出来るだけ事故が起こった県側のそなえつけ電話でかけること、山小屋でかける場合は、山小屋の住所と事故現場の位置をよく確認し、管轄が違う場合は事故現場の管轄にかけるようにとのことでした。また、他人の事故に遭遇した時、ヘリを呼ぶ前に、怪我人にヘリを呼ぶかどうか必ず確認をして欲しいそうです。でないと、怪我人が支払を拒否した場合、気を利かせてヘリを呼んだ本人に高額の請求書がきます。
それから、実際にヘリが来てからの注意点ですが、ヘリには絶対に手を振らないこと。手を振るのは、もう来なくていいよ、さようならという合図なので、来て欲しいときには、両手を挙げ、手のひらを内側に向け、大きく広げたまま動かさないようにするといいそうです。それから、ヘリから地上は意外にみえにくいので、色の着いた布を広げておく。火を炊く。あれば発煙筒をたくのが一番いいそうです。煙は、ヘリが着陸するのに必要な、風の流れを教えてくれます。手元に何も無ければ、カメラのフラッシュをヘリに向けてたくのも効果的だそうです。

「実技についての質疑応答」では、6つの班毎に、受講生側から講師に質問しました。
Q1:オールマイティなくつが欲しい。氷、岩、縦走、何でも使えるものはないか?
A:オールマイティは結局どっちつかずになることが多い。使い分けが一番。技術さえあれば、同じくつでいろいろなところに行けるはず。
Q2:ハーネスのギアラックが細くて切れそうで不安
A:ハーネスにあまりぶら下げないこと。ウエストベルトなど、出来るだけ上半身につけること。整理整頓も大切
Q3:救助法が学びたかったのに、ちっとも教えてくれなかった。指導者になる人には、救助法は必要なのではないか。八ツ峰はしんどくてつまらなかった。
A:岩場でだれかを救助しようと思えば、救助法を学ぶ前に、岩の技術がまず必要である。救助法は、岩登り講習会ではなく、救助講習会で学べる。指導者は、相手の喜ぶメニューを考えるべきで、難しいところに連れて行くよりも、やさしくとも感動を伴うところへ連れて行くべきだったのではないか。

<実技>
やぐらで60kgのタイヤを確保器(ATC)によって確保、40kgのタイヤを、肩がらみにて確保。
ボルトやハーケンを打ちながらの、懸垂下降時のセッティング、アンカーのセッティング
ハーケン、ナッツ、フレンズを使って支点を取り、ダブルロープによりリード登攀。
アイゼンで、雪渓歩行。上り下り、トラバース(ひし形歩行)。滑落停止訓練。
を行いました。基礎を繰り返す、比較的やさしい内容でした。

<感想>
この講習に向けて、ランニング、膝のリハビリを兼ねたスクワットなど、体力強化を図ってきました。20kgのボッカだけでなく、前々日に、早めに立山に入り、一人雄山に登って、高所順化もこなしてきました。講習中は、かなり速やかな懸垂下降をこなし、岩登り講習でも、四足走行のごときスピード登山では、体力に自信がありました。しかし、講習で評価されるのは、ボッカ力があり、装備を多めに持ってくる人でした。当初の参加目的の一つだった八ツ峰登攀を果たす事が出来ませんでした。
私の参加の熱意が、指導陣に伝わらなかったのは、とても残念です。今回の日山協協賛の講習会も、似たようなものでした。得るものはたくさんあった今回の講習会でしたが、生ぬるい実技講習をきっかけに、逆に、もっと勉強しよう、勉強して、紀峰から自力で八ツ峰に行こうと決心しました。
菰池 環

この文章は、2001年に和歌山県勤労者山岳連盟「紀峰山の会」に掲載されたものの、転載です。
最近の文登研とは異なりますが、ヘリの呼び方など、災害救助に役立つ情報は、現在でも通用すると思われますので、是非、ご参考になさってください。

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